モラトリアム
2009年9月30日 コメントを残す
モラトリアムとは天災などで金融に混乱が起こることを抑えるために手形決済や預金の払い戻しを一時的に猶予することをいうみたいですが、今回のは中小企業の借金返済を一時的に猶予しようとするもののようなので、微妙に性格が違う気がします(本来は金融システム安定化のため、今回のは借り手救済のためって感じ)。
たしかに、今の“未曾有の不況”下では、中小企業の資金繰りは非常に厳しいかと思います。「それを救済するのが政治の務め」といえば、そうかもしれません。
しかし、お金の貸し借りは、契約(有償消費貸借契約)です。期限が来たら利息を付けて借りたお金を返すと当事者間で約束したからこそ貸し借りが成立したのであって、約束したことは守るのが大人の責任です。約束を破ることを法律で許すなんてことは、そもそも大人のすることじゃありません(モラルハザードってやつです)。そして、今の経済は「貸した金は返ってくる」という期待の下に成り立っています。バブル崩壊もサブプライムローン問題もその期待が裏切られたが故に、起こりました。一時的であるとはいえその期待を反故にするような法律を作るってことは、政府自らバブル崩壊やサブプライムローン問題のような混乱の引き金を引くかもしれないということです。その危険性を、現政権は分かってるのでしょうか?
また、“未曾有の大惨事”であった関東大震災の際のモラトリアムでは猶予期間が30日間、本当の“恐慌”だった昭和金融恐慌の際でも猶予期間は3週間でした。にも関わらず、亀井金融相は猶予期間を3年間とか言ってます。こんな長期間返さなくてもよいとしていいものでしょうか?借り手の側にとってはありがたいかもしれませんけど、貸した銀行の側からすればその間に期限が来る債権は返ってくるはずなのに返ってこない債権、つまり「不良債権」となります。バブル崩壊後、血税などそれこそ“血の涙”を流して償却した「不良債権」が突然湧いてくるわけで、そうなれば銀行の自己資本が減ります。ただでさえ最近の国際会議で自己資本増強を強く求められてる中、世界中で日本の銀行だけ余計に増やさないといけないとなるとその資金調達も非常に厳しいものになります。大銀行が倒産してしまう、その恐怖がこの国を再び襲う結果になるかもしれません。その危険性も、現政権は分かってるのでしょうか?
さらに、本当に実施されて3年間も借金を返さなくてよくなったら中小企業は苦しみから解放されるかもしれません。が、本当にそれだけでしょうか。「借金の苦しみから解放される=みんな健全になる」ではないってことは、今までこの国で何度も行われてきました。一番最近の例は東京都の「新銀行東京」です。「中小企業を救う」という大義名分がいかにアヤシイ話かって、あの銀行を見て学んだんじゃなかったんですか。その3年の間にタチの悪い企業が計画倒産していった場合、そのツケは東京都同様民衆にまわすつもりですか?私はイヤですよ。
それにですな、今までに貸した金が3年間返ってこないとなったら、銀行は改めて融資しますかね。私が銀行なら、少なくともその3年間は融資凍結ですよ。そうなれば、中小企業が今年度は融資金でなんとか決算出せたとしても、来年度新たに借り入れができなくなって、その時点で結局倒産するしかないんじゃないですかな。他の銀行に駆け込んだって、「不良債権」を抱えさせられてるのに新規融資などするわけありませんし。「中小企業を救う」とか言っといて、実際は「中小企業の首を絞める」本末転倒な結果になるんじゃないですか?
今回のモラトリアムは、まったくもっておかしい話だと思います。特に、これを主導しているのが民意を得た民主党ではなく少数政党の(党首も幹事長も落選した)国民新党であることがおかしさを増幅しています。これが民主党の言う「国民主権」「政治主導」であるならば、やはり官僚主導の方がずっとマシと言わざるを得ませんよ。
そして、おかしいことを追及しないマスコミもおかしいですな。「子供手当て」云々より、はるかにとんでもない話なんですが、そんなこと一言も言いませんね。麻生政権の時の調子で追及すればそれで十分なんですけど、その気配すらないのには笑ってしまいます。「亀井大臣個人の暴走劇」みたいに茶化すだけ。そんなことで「真実を伝える」なんてよく言えたもんだ(ま、いつものことですけど)。
まだ法案化すらされてないことなので具体的な話はこれからなんですが……本当に実施するつもりなのか、どこまで猶予してしまうのか(私的には、やらないのがベストだけど、やるにしても「元本返済を来年度いっぱい猶予」が限界だと思ってます。それ以上やったら混乱必至)、鳩山首相のお手並み拝見ですかね。